中国とメキシコの労働事情
皆さん、中国での実際の賃金コストをご存知ですか?最低賃金以外にもかかる費用はたくさんあります。一方、他の地域の実際の賃金コストをご存知ですか?当社が出資運営している中国とメキシコの工場での実際の賃金コストを比較してみました。最低賃金だけでは比較できない色々な付随コ ストと様々な地域事情があるようです。
広東省東莞地域の最低賃金は昨年(2010年)RMB920となりました。これをメキシコ(Sonora州Guaymas)の最低賃金44.54ペソ/日と、現在の円ベースで“時間単位給”として単純に比べると約1/5となります。最低賃金だけの単純比較を見てみますと、まだまだ中国の賃金にはコスト競争力があるわけです。トータルで見ても、いま現在で言えばもちろんまだまだ魅力的なのですが、この先の賃金アップがこのペースで続くことを想像してしまうと、年々その魅力が薄れつつあると言うところでしょうか。
表1「賃金に関する比較」は最低賃金と賃金以外の労働コストとして認識しなければいけない主なものを挙げてみました。法令や行政指導で要求されていることに加えて、現地慣習として経費支出を考えなければならないものを列挙してみました。
| 項 目 | メキシコ | 中 国 |
| 所在地 | ソノラ州グアイマス | 東莞/HengLi |
| 対米ドル通貨 (2011/1/5の相場) |
0.08161 | 0.1511 |
| 対日本円通貨 | 6.69 | 12.39 |
| 法定最低賃金 (時間当たり現地通貨) |
PHP 55.84 | \5.29 |
| 法定最低賃金 (時間当たりUS$) |
4.56 | 0.80 |
| 法定最低賃金 (時間当たり日本円) |
373.57 | 65.54 |
| 支払い済み平均賃金(US$) | 1070.54 | 377.75 |
| 支払い済み平均賃金 (日本円) |
87816.56 | 30975.00 |
| 最近の給与上昇率 | 2008年:4.0% 2009年:5.5% 2010年:5.5% |
2008年:17.65% 2009年:0% 2010年:30% |
| 残業割り増し | 週勤務48時間以降の最初の9時間は10割増、最初の9時間以降は20割増を支給。 | 1日8時間勤務以降は一律5割増しを支給 |
| 賞 与 | クリスマス賞与: 賃金の30日分 | 無し。 広東省では、旧正月賞与として賃金の約1ヶ月分を支給する一部企業もある。 |
| 休日出勤割り増し | 10割増 | 土・日出勤は10割増、祝日出勤は20割増を支給。 |
| 法定最長労働時間 | 84週 (法定労働時間48時間 + 残業48時間) |
通常勤務8時間以降の残業は3時間まで(11時間/日) または残業36時間/月 |
| 有給休暇 | 7日間 | 勤務年数に応じて最長15日 |
| 食事の提供 | 弁当持参 | 朝食・昼食・夕食、さらに夜勤の場合は夜食 |
| 年金積み立て | 賃金の2% | 国および地方年金として、会社負担がRMB185.82、従業員負担はRMB96 |
| 保 険 | 3種類の保険を会社がサポートする。生命保険・傷害保険、定年後の医療保険、およびデイケア保険として年間賃金の5%が積み立てられる。 | 一律 RMB26.222 |
表1:賃金に関する比較
*2011年1月15日現在のデータです。比較の通貨もその時点でのレートを取っています。
**当社が把握できる範囲で情報の正確性と新しさは確保しているつもりでありますが、実用に当たっては再度確認をお願いします。
ポイントを整理してみますと、
1)残業、休日出勤に関してはメキシコの方が賃金割増率が高い。しかし中国は残業時間の上限が低く規制されており、運用の柔軟度はメキシコの方が高いという事が言えます。
2)メキシコは近隣から通うワーカーが主体である一方、中国は出稼ぎや遠方からの従事者が多く寄宿コストがかかります。寄宿舎を用意するだけではなく朝食/昼食/夕食および夜食を提供するコストがかかり、加えてストレスのガス抜きへの考慮であったりと言ったことが必要となります。工場の立地となるような所となりますと徒歩やバスで自分たちの行動範囲での息抜きは限られ、ストレスの解消をうまく促せないと生産性の低下を招き、場合によってはサポタージュやストライキの種ともなりかねません。
3)中国政府は社会福祉の充実に近年とみに力を入れてきています。今はまだまだ小さい金額である、年金や保険の会社負担分も今後数年は急速にその増加を覚悟しなければいけないかもしれません。
表1の14/15行目には、当社関連会社の中国工場・メキシコ工場で実際支払っている、最低賃金だけではないワーカーに掛かる総コストを月額で挙げています。操業スタイルが違うのでストレートには比べられませんが、2011年1月現在の実際支払っている金額をこの時期のレートで比較しますと、中国はメキシコの35.3%程と言うことになります。中国の賃金が年々上昇している中で、この差はさてどれ位のペースで縮まっていくのでしょうか。
メキシコでの直近3年間の賃金アップ率は4.0~5.5%程度であり、USの物価上昇率プラスα程度と言うことです。NAFTAを結んでいるアメリカ向けへの輸出を主体として考えるとコントロール可能な範囲の上昇率とも言えます。ブラジル等の周辺諸国のそれ以上の賃金上昇率を考えると、メキシコの対米輸出を考えた時の賃金コストとしてはそのコスト魅力は当分は薄まるものではないと言えるでしょうか。
東莞市での2010年度の最低賃金RMB920を、2006年のRMB830から複利で計算すると年間9.92%の上昇率ということになります。隣の深圳市も昨年RMB1,100となり、ここ数年中国沿岸部の最低賃金はほぼ同じ率での上昇となっているわけです。一方、最近の中国元の通貨切り上げは米ドルに対してだいたい年間4%程の値となっています。メキシコペソも対ドルに対して決してペグされている訳ではないのですが、最低賃金の上昇率のメキシコとの差に仮にこの中国の通貨上昇率を付加させて、年間合計9%で追い上げたとすると9年で追いつくことになります。2011年度の東莞市の賃金アップ率はこの3年間の平均を大きく超えて、RMB1,100(対前年比19.6%アップ)と先ほどすでに発表がありました。このレベルの増加が今後維持されるかは分かりませんが過去3年より高いレベル、年間合計14%で追い上げたとすると7.5年で追いつくことになります。対米輸出だけを考えた場合、より遠方に事から来る追加輸送コストや長いリードタイムによるディスアドバンテージを考えると、低賃金という側面の魅力はそれほど長くは続かないと言えます。
1980年以降、珠江地域の製造業は元々の地場の労働人口では支えきれないほどの成長を見せました。その需給ギャップが必然的に、労働力のかなりの部分を地方からの出稼ぎに頼るという事になってしまいます。出稼ぎであるが故の問題を含んでおり、①数年の短期間で稼いで田舎へ帰るという指向の為定着率が悪い、②携帯で同郷同士連絡を取り合い少しでも条件の良い働き口があると頻繁に移動していく、③定着が悪いため熟練ワーカーが育たちにくい、と言った問題が起こります。
一方メキシコはアメリカとの国境線が長く、マキアドーラ(Maquiladora)の対象地域は国境沿いに広く散在しているために他地域から労働力で補うという必要がそれほどありません。従って労働者はほとんど近隣から通っており、定着率は比較的高く維持できているようです。
質の高い中堅管理職を一定数確保することが難しかった一頃と違い、中国でも日本語や英語と言った外国が堪能な管理職を求めることは、日本以上に容易になってきました。メキシコでもアメリカでしっかり勉強した、英語が堪能な管理職も相当数確保することは難解ではないようです。ただし、中国・メキシコとも給与格差が大きい為、こう云った人材は給与が高く、能力によっては日本並みに給与を払う覚悟が必要です。
もう一つ、それぞれ固有の地域問題を一つずつ挙げるとすると、メキシコの麻薬問題と中国の倫理面です。メキシコの麻薬問題はワーカーを採用する入社時のドラッグテストというコストから始まり、国境近辺の往来時のセキュリティーまで色々な点で直面します。アメリカとの国境に近ければ近いほどこの問題は深く、遠ければ遠いほどその問題の代わりに輸送コストのアップと管理職の確保に悩まされます。
中国では違った問題、倫理問題で頭を悩まします。工場内でのモラル・風紀面の問題、購買担当部門のリベート問題、反対に営業活動でリベート等を要求されるケース、購入材の品質面での信頼性、品質クレームに対してちょっと納得できない対応に出会ったりと、倫理面がまだまだだかなと思うことに色々なところで出くわします。
成長地域で操業するからには、これらをリスクと捉えてしっかりコントロールを考えるだけではなく、良い経験と捉えて勉強の材料にしてしまう位の“胆力”が求められるようです。
